(20)罠にハメられた天莉

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「ホント、江根見(えねみ)部長も人が悪いよね。そう思わない?」  髪を一房(ひとふさ)掴み上げられる気配に、天莉(あまり)はうつ伏せの状態のまま、風見(かざみ)が次にどこへ触れてくるのか分からなくて不安でたまらない。  これ以上もう、誰にも触れられたくなんてないのに。 「さ、……わら、な……ぃで」  か細い声で拒絶の言葉を懸命に吐き出すけれど、風見は天莉の言葉を黙殺して話し続けた。 「江根見(えねみ)部長が言ったんだよ。今回の計画では私にキミのって。なのに――あの小娘め! 薬を盛るだけの役割のくせに勝手に順番を入れ替えやがって! 貢献度から言って……あいつらは私の後だろう!」  ひどく(いきどお)った様子で話す風見に、天莉は懸命に活路を見出(みいだ)そうと頑張ったのだけれど。 「ああ、キミがあいつらの毒牙にかかる前に本当によかった。怖かったね」  ススッと耳殻を撫でられた天莉は、助けられただなんて思っていないと、動けないなりにも懸命にイヤイヤをした。 「何だ、その反抗的な態度は。キミは本当に私を苛立たせるのがうまいよね。――けど、どうだね、玉木くん。婚約者の作った薬でこんなことになってる気分は?」  突然ぐるっと身体をひっくり返されて仰向けにされた天莉は、自分の上に馬乗りになって間近から天莉を見下ろしてくる風見課長の顔に激しい嫌悪感を覚えた。 「高嶺(たかみね)常務のこと、恨んでもいいんだよ? あの男がこんな薬を作らなければ、キミも今こんな目には遭っていないのだし……もっと言えば江根見(えねみ)部長や私に目を付けられることもなかったんだからね。――自分のせいで婚約者が酷い目に遭わされたと知った時の高嶺の心中を考えると、愉快で笑いが止まらなくなりそうだ」  どうやらそれこそが、眼前の下劣男の目的らしく――。 「さぁ、おしゃべりはこのくらいにして、お楽しみタイムと行こうか」  風見がいやらしく口角を上げたのと同時。  扉が壊れんばかりの勢いで開けられて、天莉は今度こそ恋焦がれた(じん)の声で「天莉!」と名を呼ばれた。
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