(21)解毒*

2/14
前へ
/482ページ
次へ
高嶺(たかみね)!? 何故お前がここに!?」  驚きの余りだろうか。風見(かざみ)が上司であるはずの高嶺(たかみね)(じん)のことを呼び捨てにして。  (じん)はそれを完全に無視すると、風見が何か言い募るのも聞かず大股でソファへ近付いた。そうして無言のまま風見を掴み上げて天莉(あまり)から引き剥がすと、投げ捨てるように床へドサリと転がしてしまう。  本音を言えば、追い討ちで一・二発ぶん殴るか、蹴り飛ばすかして制裁を加えてやりたかった尽だ。  だが、ここへ突入する際、尽は直樹から【決して誰にも暴力を振るわないこと】を散々約束させられたのだ。 『お前がそんなことをしようものなら、減刑の材料にされかねない。相手が許せないと思うなら、絶対に手を上げたりするな! 分かったな!?』  勤務時間内であったにも関わらず、あえて直樹が秘書としてではなく、友として忠告してきた言葉に、尽はグッと奥歯を噛んで了承した。  『もしそれを守れないようなら、突入はお前には任せられない。僕が行く』と言い切られてしまったのもある。  室内にいる天莉の状態が分からなかったから、いくら信頼している直樹相手でも、これ以上自分以外の男を中へ踏み込ませたくないと思ってしまった尽だ。  もちろん、何の防御もなくいきなり自分が天莉と対面するのだって、本当に正解かどうかも分からなかった。けれど、少なくとも辛い思いをしているであろう天莉の姿を、これ以上他者の目に触れさせたくなかったのだ。  はやる気持ちを抑えるようにして、室内へ押し入ってみれば、幸い天莉はまだ服をまとっていてくれて。
/482ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6535人が本棚に入れています
本棚に追加