(21)解毒*

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 素肌に直接ワンピースを着ず、下着でワンクッション設けていてくれたことが不幸中の幸いと言うべきか、背面のファスナーを完全に下ろされていても尚、天莉(あまり)の肌はむき出しにならずに済んでいた。  でも――。  本来ならばそんな姿でさえ、他者に見せるようなものではない。  (じん)だって、自分以外の人間が天莉のあられもない姿を目にしたんだと思うと、腹立たしさに(はらわた)が煮え繰り返りそうなのだ。  そんな無体を強いられた天莉の気持ちを思うと、こうなる前に駆けつけられなかった自分の愚かさに心底腹が立つ。  風見を押し退けるなり見えた天莉の泣き濡れた(かんばせ)から、相当怖い思いをさせられたのだと悟った尽は、愛しい女性をこんな目に遭わせた者達全てを地獄へ突き落してやりたいと思った。  そうして、その処罰対象の中には天莉を危険から守ってやることが出来なかった自分も含まれていると思った尽は、グッと唇を噛んで己の不甲斐なさを悔やみながら、スーツのジャケットを脱いで天莉を覆い隠してやる。 「……遅くなってすまなかった」  ジャケットで包み込むようにして壊れ物を扱うみたいにそっと天莉を抱きしめたら、尽の腕の中、天莉が涙に濡れたまつ毛を揺らしながら不安げに尽の方を見上げてきた。 「……め、なさ………」  そうしてボロボロに傷ついているにも関わらず、懸命に声にならない声で尽に謝罪の言葉を述べようとする。  『ごめんなさい』のたった六文字すらうまく紡げないことがもどかしくてたまらないという風に、今にも再び泣き出してしまいそうな顔をする天莉に、尽は胸がギュッと締め付けられて。  それと同時――。
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