(21)解毒*

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 抱きしめた天莉(あまり)の身体に力がこめられる様子がないこと。  簡単な単語ですらうまく発することが出来ずに苦戦しているようにしか見えないこと。  そうして、そんな状況にも関わらず、天莉の表情が熱に浮かされたように艶めいて見えることで(じん)は悟ってしまった。  恐らく直樹から、いま天莉の様子を見て心に浮かんだ疑念を確信に変えられる最悪の報告が上がってくるだろう。  だとしたら、やはり真に詫びるべきなのは――。 「――謝らなくていい。天莉は何も悪くない。むしろキミに謝罪せねばならんのはこっちの方だ。本当にすまない」  言いながら、尽は天莉の背中へ回した手で、ワンピースのファスナーを上げてやった。  そんな尽の背後にいつの間にか直樹が来ていて、尽に耳打ちをしてくる。  尽はそれを聞くなり「やはりそうか」と答えることしか出来なくて。  ウジ虫どもの始末は必ずつけるとして……今はとりあえず、自分が手掛けたの薬を盛られてしまった天莉のケアをしなければならない。  天莉を抱く腕にグッと力を込めて、「直樹(なお)、悪いが上に部屋を」と切り出した尽に、秘書モードの直樹が「既に手配済みです」という言葉とともにカードキーを手渡してくる。  いつもながら痒い所に手が届く直樹の有能ぶりに感心したと同時、薬の調査をつけてきた直樹がそれをするのは当たり前だな、とも思ってしまった尽だ。  先ほど天莉の様子を見て「まさか」と感じた懸念を、直樹の報告で裏付けされた尽は、天莉の身体から今すぐにでも薬のを取り除かねばならないと思った。
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