(21)解毒*

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 そもそも、江根見(えねみ)紗英(さえ)には今まで散々な目に遭わされてきたのだ。  自分自身、(江根見(えねみ)さんには気を付けるようにしなきゃ)と思っていたのに、今回もまんまと(だま)されてしまったことが、危機管理能力の低さを痛感させられるようで、自責の念に拍車をかける。  つい、あんな子でも長いこと面倒を見てきた後輩だから……と言う甘々なフィルター越しに見て、(すき)を与えてしまった。  博視(ひろし)はもう彼女のモノになっているのだし、これ以上紗英(さえ)から何かをされるだなんて、天莉(あまり)は思いもよらなかったのだ。  それを油断と呼ばずして、何と呼べばいいのだろう。  まさかいくら紗英でも、ここまで天莉に対して酷いことが出来るとは思っていなかったと言ったら、尽や直樹から『どこまで甘ちゃんなの?』と叱られてしまうだろうか。  ――人を傷つけるくらいなら、自分が傷つけられる方が何億倍もマシ。  天莉はずっとそう思って生きてきたのだけれど、今回のコレは自分のせいできっと、(じん)のことも傷つけてしまっている。 (私、尽くんの足を引っ張ってばっかりだ……)  初っ端の出会いの時からしてそうだったけれど、尽には迷惑ばかりかけてしまっている。  そう思ったのと同時、尽が今ここにいるということは、自分のせいで彼が今日やるべき仕事でさえも邪魔をしてしまっているのではないかと気が付いて。 「……め、なさ………」  尽の腕の中。  懸命に謝罪の言葉を口にした天莉だったけれど、未だに自分の身体が思うように動かせないことに焦りが募る。  今すぐにでも尽を会場に戻してあげないと。  尽の背後に伊藤直樹の姿だって見えるし、何なら彼に全てを(ゆだ)ねてくれたって構わない。 『お願い、尽くん。私のことは良いから早く会場に戻って?』  そう言って送り出してあげたいのに、尽は天莉の謝罪を拒絶すると、今回の件に関しては自分が悪いのだと、逆に天莉へ謝ってくる。  それはきっと、天莉が飲まされてしまった薬のことと関係があるんだろう。  でも――。
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