(21)解毒*

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 作ったのは(じん)だとしても、彼がそれを悪用するような人だとは思えない。  何の目的があって、尽がこんな風に服用者の自由を奪う作用の出る薬剤を開発したのかは分からない。  分からないけれど、天莉(あまり)は尽のことを信じたいと思っている。  尽は何やら責任を感じているようだけれど、天莉は元より尽が悪いだなんて思っていない。  何なら今でも変わらず尽のことを支えたい気持ちに(あふ)れているし、彼の仕事の邪魔だってしたくないのだ。  そんなあれこれを余すことなく尽に伝えたいのに、うまくしゃべれないだけで、(あふ)れ出る思いの数々を目の前の相手に伝える(すべ)のないことが、物凄くもどかしく思えて。  ならばせめてと思っても、身体も自由に動かせないからジェスチャーや筆談ですら無理とか。  一体何の悪夢だろうか――。 「じ、んく……。わ、たし……は、だぃ、じょぶ、だから……お、仕、ごと……」  それでもやはり何もしないではいられなかった天莉は、しどろもどろ。  懸命に単語と単語を繋ぎ合わせるようにして、自分を見下ろす尽にそう言ったのだけれど。
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