(21)解毒*

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「玉木さん、心配なさらなくとも大丈夫です。本日の高嶺(たかみね)常務の業務はほぼ終了しています。もちろんいくつか残っているものもありますが、それらは他の人間でも対応できるような些末(さまつ)なことばかりです。なので今は彼にしっかり責任を取って頂いて、ご自身の回復に努めて下さい。貴女が元気になって下さらないと、その男は使い物になりません。……正直ポンコツ過ぎて会場には戻せないと、わたくしは考えています」  (じん)が口を開くより先。ソファ上で尽に抱き締められたままの天莉(あまり)に視線を合わせるように少し身を屈めた直樹が、どこかおどけたように言って、柔らかい笑みを向けてくれる。  本音を言うと、尽にずっとそばへいて欲しいと思っていたことも確かだ。  天莉は、もしもそれが許されるならば、そうさせてもらえると嬉しいな、とぼんやり思って。 「直樹(なお)、お前……」 「真実でしょう? それに、貴方のことだ。残務に関してはあの方々に根回し済みなんでしょう?」 「……ああ、どうせ後から合流するつもりでいたからそのついでに頼んできた。悪いがあっちのサポートをしてやってもらえるか?」 「元よりそのつもりで貴方にお部屋を取ったんですけどね」 「だよな。ホントに有難う。あと……今回の件に関与した者たちの沙汰については俺が直々に動きたい。逃げ道は塞いだ上で、そこはうまく留め置くようにしといてもらえるか?」 「相変わらず無理難題を吹っかけてきますね」 「それだけお前のことを信頼してるってことだよ、。――もし璃杜(りと)が天莉と同じ目に遭わされたらお前だって自分で、って思うだろ? それと一緒だと思って動いてくれればいい」 「出してくる例えが秀逸すぎて腹が立ちますね」  ふっと笑って直樹が一礼して去っていくのを見届けてから、尽が腕に力を込めてくる。 「さて、そうと決まればこんなところに長居は無用だ。俺たちも移動しようか」
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