(21)解毒*

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***  直樹が(じん)天莉(あまり)のために手配してくれていた部屋は、三十五階にあるロイヤルスイートで、リビング・ダイニング・ミニキッチン、書斎などを備えた贅沢な客室だった。  一泊いくらぐらいするのか天莉には見当もつかないような、ラグジュアリーな空間。  その部屋の中、ふかふかのソファに横たえられた天莉は、すぐそばに座った尽の膝枕で話を聞かされている。 「天莉(あまり)。キミが飲まされた薬には解毒剤がない。というより多分これが効くだろうというものはあるが、例の薬自体、まだ治験にも至ってないような試作段階のシロモノなんだ。正直、他の薬剤を摂り入れることでどんな作用が起こるか分からないから使いたくないというのが本音だ。……そんなリスクを(おか)すぐらいなら、何もせずに時間経過とともに副作用が薄れていくのを待つ方がよっぽどマシだと思う。だが――」  そこで躊躇(ためら)いをにじませて言いよどむ(じん)を、天莉(あまり)は黙ってじっと見上げて。 「何もせずにいれば、完全に症状が消えるまで丸一日は掛かってしまう。その間は身動きが取れないからトイレなんかにも介添えが必要になるはずだ。あと、言葉も不自由だからね、下手するとそれを伝えること自体困難かも知れない。もちろん、俺がずっとそばにいてキミが不自由を感じないよう手を尽くすつもりではいるが、一〇〇%分かってやれるとは言い切れない。――そういう諸々の事情を踏まえた上で提案だ。が、少しでも早く動けるようになれる方法を取らせてもらえないか?」  (じん)がそう言うのなら、きっとそうしてもらうのが一番なんだろう。  天莉だって、尽にお下の世話は任せたくない。  でも、(じん)の言葉にどうしても引っかかる部分があったから。天莉はそれを確認せずにはいられなかった。 「あ、らりょ、じ……て?」 「……連中がキミにしようとしていたことを俺がする」 「へ…………?」 「率直に言おう。――絶頂に達する頻度が高ければ高いほど薬の抜けが早いんだ」 「ぜっ……」  尽の言葉に、天莉は思わず思考が停止してしまった。
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