(22)紗英の身勝手な言い分

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 悔しかったからそれを盾に『つわりがしんどくてぇ』とか言って、風見(かざみ)便宜(べんぎ)を図らせて今までより一層沢山の仕事を玉木(たまき)天莉(あまり)へ押し付けまくった。  けれど、何故かそれも通用しなくなったとあっては、紗英(さえ)には妊婦もどきを演じるメリットなんて微塵もなくて、紗英としてはまさに踏んだり蹴ったり。  自分の力で先輩をフラせたと思っていた博視も、上司の〝江根見(えねみ)部長〟の圧力に屈してのことだったとしたら、玉木をフラせた時の快感も半減して、本当に気分が悪い。  風見(かざみ)と玉木天莉の手前、幸せそうにニコニコ笑顔で博視との婚約発表を受け入れた紗英だったけれど、本当はちっとも嬉しくなんてなかった。  顔を見る機会なんてほとんどなかった常務の高嶺(たかみね)(じん)が総務課へ突然やってきて。  間近で彼と、その秘書の伊藤直樹の姿を見てからは、博視がイモにしか見えなくなって、ますます博視を捨てたくてたまらなくなった。 (赤ちゃん、上手く育たなくて死んじゃったぁ~って言ったら、博視との婚約も解消出来ちゃうかな?)  そう思っていた矢先、仕事を誰にも押し付けられないかったるい毎日が始まったから。 (働かされ過ぎて流れちゃったことにしちゃおっかな)  そうすれば、風見も玉木もきっと、自分たちを責めることになる。  もしそう思われなかったら、わざとそう思うように仕向けてやろう。  そう思っていたのに――。
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