(22)紗英の身勝手な言い分

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(お婿さんのすげ替え、紗英(さえ)よりパパの方が乗り気ぃ~?)  願ったり叶ったりな父からの提案だったけれど、紗英は父親の思惑が透けて見えたことでわざともったい付けるみたいに「えっ?」と驚いた顔をしてみせた。  そうしたら案の定というべきか。則夫(のりお)は畳み掛けるみたいに「腹の子のことなら心配いらんぞ? 子供ごとお前のことを受け入れさせることも可能だ。――だからまぁ、なんだ。そこは深く考えずに紗英が好きな(ほう)を選ぶといい」とやたら強気で。  言葉こそ紗英の好きにしたらいいと言いながらも、実際には高嶺(たかみね)に乗り換えなさいと言う願望がスケスケ。  だからこそ、元々博視(ひろし)とは別れる気満々な紗英だったけれど、一応建前として「えぇー、そんなことしたら博視が可哀想だよぉ?」と心にもないことを言っての仮面で父をヤキモキさせて。内心ではニンマリほくそ笑んだのだ。  それに、何より――。 (おバカな先輩をズタボロにしてぇ、その上で婚約者をもう一度奪ってやるのもめちゃくちゃ楽しそうだしぃ~? 紗英ぇ、俄然やる気が出てきたかもぉ~♥) ***  『いつもは薬を盛る役は風見(かざみ)斗利彦(とりひこ)がやっているからね。やり方は彼に聞くといい』と則夫から言われた紗英は、心の中で(うん、知ってるよぅ?)と答えていた。  ついでに風見(かざみ)への報酬が、ターゲットの蹂躙(じゅうりん)役に(おの)れも加えてもらうことだということも、風見との情事の際に聞かされて知っていた紗英だ。 『あれを飲ませるとね、どんなに澄ました女でも蜜をだらだらこぼして男を受け入れるんだ。私は男だからよくは分からんが、相当気持ちいんだろうよ』  ククッと下卑(げび)た笑いを浮かべた後で、『実は今、ここにほんのちょっとだけちょろまかしたのがあるんだけど、試してみる?』と聞かれて、紗英は興味津々になった。
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