(22)紗英の身勝手な言い分

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 この状況。きっと婚約者の高嶺(たかみね)(じん)も、天莉(あまり)について何か勘付いているはずだ。 (ふふっ。先輩、そぉーいうの誤魔化すの下手そうだしぃ~。高嶺(たかみね)常務とも破局かなぁ~?)  天莉がこのまま仕事を辞めたりしたら、どんな目に遭わされたのか根掘り葉掘り聞く機会を失ってしまいそうで非常に残念だ。  そういえば博視(ひろし)も、元カノが酷い目に遭う片棒を担がされたことがショックだったのか、あの日から紗英(さえ)の連絡を無視していて、会社も休みがち――。  紗英としてはそのくらいのことで病んじゃうなんてホント弱い男!という評価なのだけれど、逆にそれを理由にフリ易くなって好都合。  婚約者に無視された心痛で赤ちゃんはすでにというだし、あとは父親の息のかかった高嶺尽からリアクションが起こされるのを待つばかり。  万事うまく行った後なのだ。  きっと高嶺(たかみね)(じん)は父・則夫の手中。  ここ数日、則夫がご機嫌なのもそう言うことに違いないのだ。  あの美丈夫が、紗英の足元に(ひざまず)いて、紗英の望むまま。それこそ足だって舐めてくれるかも知れないと思うとゾクゾクして会社なことも忘れて自慰に(ふけ)りたくなってしまう。  そんな折のことだった。 「江根見(えねみ)紗英(さえ)さん、ちょっといいですか?」  紗英の父親である江根見(えねみ)則夫(のりお)とともに、珍しく秘書の伊藤直樹をやって来た高嶺尽に声をかけられたのは――。  紗英が入社して、高嶺(たかみね)常務が自分のいるフロア――七階総務課――へ来たのは今回で二度目のことだった。
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