(22)紗英の身勝手な言い分

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*** (キャー、やっとなのねっ。パパ♥)  高嶺(たかみね)(じん)のすぐ横へ立つ父親に()びた視線を送ると笑顔でコクッと(うなず)かれて、紗英(さえ)は天にも昇る心地になった。 「はぁい、何のご用でしょぉ?」 (告白されるんだって分かっててもぉ~、ここは気付かないふりをするのが正解よねぇ~?)  自身の来訪に、皆の視線がこちらへ集まっていることを気にしているのだろう。 「……ここでこのまま話すのも何だ。場所を移さないか?」  周囲を一瞥(いちべつ)しながら告げられた高嶺尽の言葉に、紗英は(そんなのもったいない!)と思ってしまった。  だって……。  今から自分はこのハイスペック男にを聞かされるに違いないのだから。  総務課の皆には大いに聞き耳を立ててもらって、いつか復帰してくる玉木(たまき)天莉(あまり)へ大ダメージを与える一助になって欲しいではないか。  秘書の伊藤直樹が、(おのれ)の主人が平社員に過ぎない自分にひざを折る様をどんな顔で見詰めるのか見られないのはちょっぴり惜しい気がしたけれど、まぁ今回は本命の高嶺尽が屈服する様を見下ろせるだけで良しとしようと思った紗英だ。  則夫(のりお)の話によると、伊藤直樹はすでに妻子持ちのようだし、だとしたらほかの女のお手付きになることもない。  主人さえ押さえておけば、あの手の(やから)を落とすのはきっと造作もないことだ。  まずは独身の高嶺尽を篭絡(ろうらく)してから、ゆっくりと時間をかけて手を下せばいい。  それこそ、どうしても屈服しない場合は、伊藤の飼い主の高嶺尽に、紗英の言うことには絶対服従だと命令させればいいだけ――。
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