(22)紗英の身勝手な言い分

17/17
前へ
/482ページ
次へ
***  今回紗英(さえ)がかかったのは、数名いるうちの一人であるが経営している入院施設もある個人経営の産婦人科で。  以前風見(かざみ)不埒(ふらち)なことをされて緊急避妊薬をもらいに来たのもこの病院だが、今回も適当に口裏を合わせてくれるよう旦那側から手を回させて、流産後の処置のためと称して一泊ほど入院したことにした。  セフレの妻である産婦人科医が当直の日をわざわざ狙って入院する(てい)にしたのは、偽装工作をスムーズにする意味もあったが、泊まり先を確保するためでもあって。  渋る男を説き伏せてした〝夫婦の寝室〟での不貞行為は、何も知らずに愛する夫の頼みを聞いているバカな妻から、最愛の旦那を寝取ってやったと実感出来て、とても興奮する一夜になったのを覚えている。    主に父親対策のための外泊だったけれど、そのお陰でこんな風に高嶺(たかみね)(じん)の同情を引くネタに出来たのは有難いなと思って。  持つべきものは便利なセフレとおバカな妻だなと心の中でほくそ笑んだ紗英だ。  その(おご)りが自分の首を絞めるとも知らずに、眼前の美丈夫を涙に潤んだ()びた眼差しで見詰めたら、高嶺(たかみね)(じん)がギュッと紗英の手首を握ってきて、紗英は不覚にもときめかされてしまった。
/482ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6542人が本棚に入れています
本棚に追加