(23)許してやるつもりなんてない

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 ブルブルッと胸ポケットに突っ込んだままのスマートフォンが振動して、(じん)恍惚(こうこつ)とした目で自分を見つめてくる江根見(えねみ)紗英(さえ)の手首を握る手にグッと力を込めたまま、「失礼」と一言告げて携帯を耳に当てた。 「……ああ、まだ総務課のフロアだ。――悪いがこっちに頼む」  手短かに用件のみで通話を切った尽に、紗英がキラキラと瞳を輝かせて尽ににじり寄って来て。 「高嶺(たかみね)常務(じょぉむぅ)~、今のお電話のお相手ってぇ、もしかして秘書の伊藤直樹さんですかぁ?」  尽は今すぐにでも目の前の女を突き飛ばして距離を取りたいのをグッとこらえて、紗英の手首を握る手に力を込めると「ああ」と答えた。 (指先が触れるだけでも胸糞が悪いが、今はまだこいつを逃がすわけにはいかないからな……)  今からここへ来る人物を見たら、紗英は逃げ出しかねない。  当初は自分の執務室での断罪遂行(すいこう)を考えていた尽だ。  だが、紗英自身が同僚たちの前でのを望んだのだから仕方がない。  執務室ならば外から出入り口を塞いでしまえば袋の鼠だったのだが、ここ――総務課フロア――だと広すぎてそうはいかないから。  苦肉の策で握りたくもない紗英の手首を掴む羽目になっている尽だが、本音を言うと縄でも掛けてやりたいくらいだ。 「あぁん、高嶺(たかみね)常務ぅ、そんなに力を込められたら手ぇ、痛いですぅ」  手首を握るより肩を抱いて欲しいと自分を見上げて強請(ねだ)る紗英に、尽はいい加減限界だ。
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