(23)許してやるつもりなんてない

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「……職場だからね」  スリスリとこちらへ身体を寄せてこようとする紗英(さえ)を片手で制すると、(何とかする気はないのか?)という願いを込めてすぐそばに立つ江根見(えねみ)則夫(のりお)へ視線を投げ掛けたのだけれど。  則夫は、職場内で同僚らの視線を物ともせず婚約者でもない男にあからさまに()びた態度を取る娘に、何の注意もする気はないらしい。  その(おろ)かさにもほとほと呆れて盛大に溜め息をつきたい衝動に駆られた(じん)だが、何とかこらえて。 (この馬鹿親にしてこの子ありだと思えば納得だな)  自分を合点(がてん)させるためにそう思いながらも、先ほど直樹に手配を頼んだ人物の到着が待ち遠しくてたまらない。  腕の中に抱き締めても(ほの)かに甘い香りがする天莉(あまり)(こころよ)さと違って、紗英からは距離を取っていても吐き気がするような強い香水の香りが漂ってくる。  そのにおいが身体にまで移って来そうで、尽は手を洗ったくらいでこの不快感が(ぬぐ)えるだろうかと思って。  自分のすぐ横で、ニコニコとそんな娘を見詰めている江根見(えねみ)則夫(のりお)にも吐き気がするが、全ては天莉(あまり)のためと思ってグッと我慢をする。  だがこれ以上紗英にすり寄ってこられたら、さすがに嫌悪感を隠し切れる自信がない。  帰宅後は天莉へ触れる前に、絶対風呂へ入ろうと心に誓った尽だ。  と、やっとフロアの扉が開いて、待ちわびた人物が姿を現して。  尽は視線だけで入ってきた相手にこちらへ来るように誘い掛けた。
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