(23)許してやるつもりなんてない

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*** 「よ、横野(よこの)!? お前、いまさら何をしに来た!」  紗英(さえ)よりいち早く新たな登場人物に気付いた江根見(えねみ)則夫(のりお)が大声を上げたのを受けて、紗英もハッとしたようにそちらを見て。 「な、んでっ。博視(ひろし)総務課(ここ)へ来てるの⁉︎ ずっとお休みしてたんじゃないの!?」  きっと(じん)の言葉から直樹が来ると思い込んでいたのだろう。  直樹には別に用事を頼んであるので元より姿を現さないことを知っていた尽は、紗英の反応に一人ほくそ笑んだ。  博視と、まだ正式には別れていないからだろう。  直感的にまずいと思ったのか、尽から距離を取ろうとしてきた紗英に、尽は紗英の手首を握る手にわざと力を込めると、逃がす気はないよ?と言外に含ませる。 「ヤダッ。高嶺(たかみね)常務っ! 博視(フィアンセ)の前でっ、冗談が過ぎますよぅ!?」  計算高い女のこと。  自らの不貞(ふてい)を、今はまだ、博視に見られるのは得策ではないと思ったのだろう。  さも貴方が悪いと言わんばかりの口振りに、尽は思わず鼻で笑った。 「つい今し方、私にしな垂れかかって『肩を抱いて欲しい』とせがんできた女性の言葉とは思えませんね」  ククッと喉を鳴らして手を振りほどこうと必死にもがく紗英を牽制(けんせい)すると、一瞬だけ紗英をグイッと引き寄せて、背後から両肩に手を載せた。  そのまま博視の方へグイッと紗英を突き出すと、 「横野くん、キミは婚約者の江根見(えねみ)さんが流産して、その処置のため入院なさってらしたことをご存知ですか?」  真正面から二人を向き合わせる形にしてそう問いかける。
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