(23)許してやるつもりなんてない

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「え? 他所(よそ)のお宅へ外泊したって話ならけど……入院してたなんて初耳です。……っていうか紗英(さえ)、本当に妊娠してたんだ。……だとしたらそれ、ホントは誰の子だったの?」 「な! 横野くん、キミは一体何を言ってるんだね!」  (じん)の言葉に溜め息混じりで疲れたように話し始めた博視(ひろし)に、則夫(のりお)が心外だと言わんばかりに噛みついて。  だが、博視は小さく吐息を落とすと、江根見(えねみ)則夫に冷ややかな視線を向けた。 「先日、親睦会の日に来てたアスマモル薬品の人たちがいるじゃないですか。江根見(えねみ)部長の息がかかった二人。――俺、あの人達に言われたんですよ。紗英と寝たことがあるって」 「な、何を言ってるの! 博視(ひろし)!」  紗英が真っ青になって博視の口を塞ごうとしたけれど、博視はスッと紗英から離れると言葉を続けた。 「俺、天莉(あまり)(おとしい)れるような犯罪の片棒を担がされたことにも……。天莉を振ってまで結婚しようと思った紗英が貞操観念ゆるゆるだったってことにも……結構ショックを受けてさ。天莉は絶対俺以外の男になびくことはなかったし?とか考えたら自分の選択が間違ってたんじゃないかって後悔しまくった」 「そこでを引き合いに出さないでもらえるかね?」  今まで黙っていた尽からの氷のような指摘にグッと押し黙った博視は、「俺の天莉、って……。なんだ、そういうことですか」と小さく吐息を落とすと、則夫にちらりと視線を投げかけて。「……出来もしない出世に目が(くら)んだ代償は大きいな」とつぶやいた。 「まぁとにかく何か色々イヤになってさ、仕事も休みがちになってたんだけど……わざわざ俺指名で新しい顧客が入ってるって会社から連絡が来て……。気力振り絞って久しぶりに仕事へ出てさ。いざ先方へ出向いてみたら何のことはない。産婦人科を経営してる女医さんから『うちの旦那と貴方の婚約者が不貞行為を働いています』って告発で……彼女の自宅の寝室で行為に及んでる紗英と旦那さんの映像を観せられたんだけど」
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