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「貴様ら、いい加減黙らないかっ!」
さすがに娘の危機は、自分にとっても不利と思ったんだろう。
江根見則夫がざわつき始めた総務課フロアに響き渡る声で一喝して。
ひそひそと囁き合っていた社員たちが一斉にシン……と押し黙った。
「いい加減にするのは貴方の方ではありませんか? 江根見部長」
尽が紗英を取り押さえたままつぶやくと同時。
その声に、さすがに放置しておけないと思ったんだろう。
今までわざと目立たないよう身を縮こまらせていた風見斗利彦が、そそくさとこちらへやって来て、「あ、あのっ。皆の士気にも関わりますし……場を移しては如何でしょう?」と四人をうかがうように交互に見遣った。
だが尽は、そんな風見を一瞥すると、バカにしたようにふっと笑って。
「いえ、私はもうここで全部終わらせるので構わないと思っていますよ? そもそもこの状況はここにいらっしゃる貴方の可愛い部下の江根見紗英さんのご意向でもありますし、風見課長も高みの見物を決め込めるほど部外者と言う立ち位置ではないのはご自身が一番ご存知でしょう? 実際、私は風見課長がいつこちらへいらっしゃるのかな?と心待ちにしていたくらいです」
尽の言葉に風見が「な、何をおっしゃるんですか、高嶺常務っ。色々黙っているのと引き換えに、私のことは見逃して下さるという話だったではないですかっ」と白々しい反応をする。
尽はそんな風見へ「貴方の行動次第で少し猶予を差し上げますとは申しましたが、風見課長がしたことを全て無に帰すなどとお約束したつもりは微塵もありませんよ?」と声を低めて静かに睨み付けた。
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