(23)許してやるつもりなんてない

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 風見(かざみ)(じん)の冷ややかな視線に「ヒッ」と悲鳴を上げるとその場に凍り付いたように(たたず)んで。  江根見(えねみ)則夫(のりお)がそれを横目に、全てを遮断(しゃだん)したいみたいに耳を塞ぎ座り込んでしまった娘を「バカ娘がっ」と舌打ちして見下ろしてから、「高嶺(たかみね)常務、いい加減になさって下さい。冗談が過ぎますよ?」と尽に鋭い視線を向けてくる。  そうしてついでのように、「貴方も、よもやをお忘れになったわけではありますまい?」と声を一際(ひときわ)低めて尽を脅そうとしてくるのだ。  その、さも切り札は自分にあると言わんばかりの不敵な笑みに、尽は嫌悪感もあらわに眉をひそめた。 「あの話? はて私には何のことやらさっぱり。ハッタリをかますのもいい加減になさった方がよろしいですよ、江根見(えねみ)部長」  尽は目の前のバカ部長が、尽を従わせるために告げてきた〝あの話〟とやらを思い出していた。  ――高嶺くんが作った薬のせいで、キミのフィアンセは少なくとも三人の男たちに汚されたみたいですよ?  開発途中の薬の製造方法を盗まれるような管理体制を敷いていた愚かな企業と、己の浅はかさを呪うべきだと言われ、ついでに薬の開発責任者が尽だということを玉木(たまき)天莉(あまり)には吹聴(ふいちょう)済みだ、と高らかに宣言された。  ――さすがに自分が作った薬のせいであんな目に遭わされたと知られては、玉木天莉(フィアンセ)へ会わせる顔はありませんよね?  ――こちらには彼女が凌辱(りょうじょく)されている動画もあるし、玉木天莉の尊厳を守りたければ私の言うことを聞いた方が身のためだと思わんかね?  そう脅してきた江根見則夫に、そんな動画についてはもちろんハッタリだと分かっていたけれど、わざと従うふりをした尽だ。
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