(23)許してやるつもりなんてない

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 直樹の報告で、あの部屋に隠しカメラが設置されていたことは知っている。  いつも女性を襲っている様子を隠し撮りして、後に被害者を脅して口封じしていたことも調べが付いている。  (じん)は直樹が回収した映像でアスマモル薬品のバカ男ども――沖村(オッキー)伊崎(ザキ)と名乗り合っていた――が天莉(あまり)を責めている動画だって確認している。  胸糞の悪い映像だったので、直樹に命じて機械の動作不良を装い、さも最初から何も撮れていなかったみたいに内容を消去させておいたが、江根見(えねみ)則夫(のりお)は証拠なんてないのを知っていてあえて虚勢を張って来たんだろう。 (俺が何も知らないと思っての言動だろうが、残念だったな)  天莉が、自分が(たずさ)わった薬品のせいで酷い目に遭わされたのを知っていることは先刻承知だったし、そもそもその天莉にしたって、ギリギリのところで救出済みだ。  何も知らない江根見則夫を泳がせるため、尽はあえて横野や風見(かざみ)、沖村や伊崎を押さえ、天莉が救助されたことを他言しなければ、少し猶予(ゆうよ)を与えてやると示唆(しさ)して江根見則夫の言葉に脅されるふりをした。  もちろん、先に押さえておいた四人に関しても、余罪がたんまりとあり過ぎる。  猶予(ゆうよ)なんて言葉は彼らを従わせるための詭弁(きべん)で、無罪放免にしてやるつもりなんて最初(はな)からないのだ。 (世の中には野放しにしてはいけない人間と言うものは少なからずいるからな)  今回の件に関わった人間は、程度の差こそあれすべからくそちら側だと尽は認識している。 (横野だって天莉が酷い目に遭わされていると知っていて助けようとしなかったんだ。同罪だろ)  さも自分も被害者のように紗英(さえ)を責めていたが、自らの保身を優先して天莉を救出しようと動かなかった時点で、横野もアウトだと尽は思っている。
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