(23)許してやるつもりなんてない

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 風見(かざみ)としては一番紗英(さえ)が声を掛けやすかったのだろうが、その途端則夫(のりお)に「これ以上恥の上塗りをするな」と声を低められて、「ヒッ」と肩をすくめる。 「紗英、お前もこれ以上恥ずかしい思いをしたくなければさっさと立ちなさい」  手を貸す気なんてさらさらないと言わんばかりの父親からの冷たい声音に、紗英が恐る恐る則夫を見上げて……。  則夫が、今まで見たことのない冷ややかな視線で自分を見下ろしていることに気が付いて「パパ……」と声を震わせた。 「……お前のような嘘つきな恥知らずを娘に持った覚えはない」  だが、則夫はまるで手のひらを返したように紗英へ告げると、さっさと(きびす)を返して。 「これ以上貴様の茶番に付き合う意味があるのかどうかは分からんが、ここで逃げてはこちらに非があると言われ兼ねんで胸糞が悪い。高嶺(たかみね)(じん)。貴様の言い分とやらを全て聞いてやろうじゃないか」  今まで尽のことを上司ということで(うやま)ってきたのが嘘のように、上から目線な言葉を投げ掛けてさっさとフロアを出て行ってしまう。  紗英がそんな父親の後を追ってよろよろと立ち上がると、横野と風見がそれに続いて動き始めて。  最後に残った尽は、なおもこちらをチラチラと見つめている社員らに向き直った。 「お仕事中に大変お騒がせしました。難しいかも知れませんが、皆さんはこのまま業務を続行してください。後ほど今後のことについてこちらから指示を出しますので、それまでは今手元にある仕事をこなしながら待っていて頂けますか?」  綺麗な所作で深々と頭を下げた尽に、社員らが一層ざわついて。  だが、その中の一人が「分かりました」と答えたのを皮切りに、皆が仕事へと戻っていく。  尽はそれを確認してから、管理本部総務課を後にした。
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