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尽は皆を執務室の中央付近、吊り下げ型の照明が設置されている会議机の方へ誘うと、着席を勧めた。
大きめの長方形をした会議机は、短辺に一人ずつ、長辺に五人ずつの、計十二名が座れるようになっている。
尽が上座に当たる机の短辺部に陣取ると、皆が思い思いの位置に向かった。
そんな中にあって、直樹は尽の斜め後ろに立ったまま。
どこへも座るつもりはないらしい。
いつもなら何も指示しなくても秘書室へ入って茶の準備などをするところだが、その必要はないと判断したのだろう。
尽から見て右手側手前から江根見則夫、風見斗利彦、横野博視、江根見紗英が、左手側博視の前に浅田・夫、紗英の前に産婦人科医を営んでいる浅田・妻が腰かけた。
(……父親の隣に座ると思ったが避けたか)
てっきり、紗英は則夫の隣へ行くものと思っていたのだが、尽の予想に反して父親からは一番離れた席――博視の隣へソワソワした様子で落ち着いたことに少し驚かされた尽だ。
(父親に突き放されたのがそんなにショックだったか)
今まで虎の威を借る狐状態で父親の庇護下で好き放題やって来た紗英にとって、常に自分へは甘々だった父親から向けられた侮蔑の眼差しは相当こたえたと見える。
(まぁ父親の後ろ盾がなければただの小娘だしな)
いつも天莉を小馬鹿にしていた――と直樹からの報告で知っていた――江根見紗英のしゅんとした様子に、尽は眼鏡の奥の瞳を人知れず細めた。
(いいザマだな)
若い女子社員相手に大人気ないが、それが尽の率直な感想だ。
そうして恐らくあえて紗英や博視の前を陣取る形で着座した浅田医師からこれから告げられるであろう言葉は、更に紗英を追い詰めるはずで。
(しばらく高見の見物といくか)
尽は浅田医師に視線を送りながら、「では浅田先生のご用件からお聞きしましょうか」と宣言した。
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