(4)そう言うことでしたら今夜はとりあえず

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「どうせ心配してくれるんならこういうこと自体控えてもらいたいんだがね? なぁ、(じん)よ。僕が駆けつけるのが遅かったら、玉木(たまき)さんにキスのひとつでも出来ていたのに、とか言うつもりだった? 大体急いで戻って来てみれば……お前ってやつは……。何で彼女をここに連れ込んでる? 僕は別れ際、下でお前に言わなかったか? ひとりになったからって妙な真似はするなよ?って」 「だから! さすがにこの状況はまずいと思ったからお前に連絡したんだろーが。それに心外だな。俺は彼女に妙な真似なんてしていないぞ?」  相当怒っている様子の直樹(なおき)を前にしてもなお、飄々(ひょうひょう)とした様子で悪びれもせず言い返す尽に、天莉(あまり)はとにかくソワソワと落ち着かない。  大体さっきからちょいちょい自分の名前も出ているのだ。  無関係です、と知らん顔をして成り行きを見守っていられるほど天莉の神経は図太くなかった。 「? お前、本当にバカなのか? 第三者がいるわけでもないこの状況で……個室(ここ)へ女性社員を連れ込んでたってだけでも大問題なのに! 彼女を抱きしめた後、何をするつもりだったんだ!」 「いや、あれは抱き締めたとかじゃなく――」  そう。それは全くの誤解だ。  尽は、ただ単に天莉がバランスを崩したのを支えてくれただけに過ぎないのだから。  それに――。  元はと言えば天莉がふらついた原因は直樹が突然部屋に押し入ってきたからというのもあるわけで……。 (伊藤さんも悪いです……)  一人心の中。  いつの間にか尽の肩を持ってしまった天莉だ。 (ああ、でも……)  自分が倒れたりしなければ……。  もっと言えばエレベーターの昇降ボタンを押し間違えたりしなければ……。  こんなことにはならなかったはずではないか。  そう思ったら、思わず謝罪の言葉が口を突いていた。
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