(24)尽の正体

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 そこには数年をかけて(じん)と直樹が調べ上げた則夫(のりお)風見(かざみ)の悪事が時系列に添って分かりやすくまとめられていた。 「今日はひとまず資料としてこちらをお渡ししますが、別途内容証明でアスマモル薬品からの訴訟(そしょう)内容などもお送りさせて頂いておりますので、そちらも併せてご確認下さいね」  桃坂(ももさか)弁護士ののほほんとした言葉に、「はぁ!?」と則夫が噛みつかんばかりの勢いで目の前の紙束を手に取った。 「江根見(えねみ)部長。私がアスマモル薬品で研究・開発していた過眠症(ナルコレプシー)の治療薬の研究データを、あちらの社員を買収して入手したのが貴方だという証拠はあがっています」  並べられた書類を顔面蒼白になりながら必死でめくる則夫に、尽が淡々と語り掛ける。 「あの薬は致命的な副作用が確認されて、プロジェクト自体を一旦白紙に戻したものです。本来ならば社外へ出る事など有り得ないはずのものでしたし、ましてやそれを悪用する人間などいてはならない薬でした。そして――」  そこで一度言葉を止めると、(じん)は力ない様子で紙片をめくる風見(かざみ)へ視線を移した。 「あの薬の副作用のことをアスマモルの社員から聞き付け、悪用する話をそちらの江根見部長へ持ちかけたのは風見課長、貴方ですよね?」  開発途中だった新薬は、アルコールと同時摂取することで身体能力や言語中枢の麻痺を誘発するのと同時に、覚醒作用を強く引き起こすことが分かっていた。  身動きが取れないのに感覚だけは異常に研ぎ澄まされると言う副作用は、身体を麻痺させた状態で、強烈な催淫効果をもたらすと言うことでもあって。  そのまま世に出せば犯罪などに利用されかねない。  そう考えた尽たちプロジェクトメンバーは、一旦その薬の開発を中断し、研究データを封印したのだ。  なのに、それが社外へ持ち出されてしまった形跡が発見されて。
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