(24)尽の正体

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江根見(えねみ)部長。貴方が私を(おとしい)れるためだけに私の婚約者へ手を出したのは、本当に愚行だったとしか思えませんな」  天莉(あまり)を救助した(じん)は、あの日ホテルで天莉に頼んで彼女の血液を採取させてもらっていた。  後日その血液から例の薬の成分を検出したことが決定打となったことを示唆(しさ)した尽に、則夫(のりお)が「バカな……」とつぶやいた。 「ああ、江根見部長はご存知ありませんでしたね。私の婚約者の玉木天莉は、貴方が差し向けた誰の毒牙にも掛かることなく私が救出しています。――なので、彼女は薬の成分が抜けきる前に私の手中にあったのですよ」  ずっと、被害者たちの存在を認知しながらも、事後報告的なデータばかりで、薬が使われた確かな証拠のみを得られないでいた尽たちは、天莉がターゲットに選ばれたことでその確証を得るに至ったのだ。 「私としても大事な婚約者に投薬されてしまったのは大変不本意な話でしたがね、天莉が犠牲になったことを無駄にしなくて良かったと思ったことだけは確かです」 「バカな! 玉木天莉はあの日からずっと休んでいるじゃないかっ! だから私はあの女になかなか接触が出来なくて……」 「ああ、天莉が身体を(もてあそ)ばれたショックで仕事を休んでいるとでも思っていらっしゃいましたか? 本当おめでたい人ですね、貴方は。――私が貴方の考えることぐらい見抜けないとでも思っていましたか?」  尽が天莉を長期間に渡って休ませた理由のひとつは江根見(えねみ)紗英(さえ)との接触を避けさせかったことだが、もう一つは、江根見則夫が薬の開発者としての尽の名を出して、天莉を脅すことを回避したかったからだ。 「どうせ卑怯な貴方のことだ。天莉に『私の名誉に関わることだ』とでも告げて、彼女を意のままに操るつもりでいたのでしょうが、私が大切な婚約者をみすみす貴方が待ち構える社内へ送り出すわけがないでしょう!」
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