(24)尽の正体

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 そこで(じん)風見(かざみ)斗利彦(とりひこ)を心底軽蔑(けいべつ)した目で見詰めたから。  風見は何も言い返せなくなってしまった。 「……ですが他の女性たちに関しては既遂(きすい)ですよね?」  風見は、女性を斡旋(あっせん)することでただ利権を(むさぼ)るだけだった則夫(のりお)と違って、薬で動けなくした女性たちを何人も無理矢理手籠(てご)めにしてきている。  強制性交等罪も適用されるはずだ。  ここに関しては則夫はノータッチだと言う調査結果が出ている。  それを(ほの)めかした尽の言葉に、紗英(さえ)がホッとしたように肩の力を抜いたのが分かった。  まぁそれはそうだろう。  父親のそういう話なんて聞きたい娘は居ないはずだ。 (娘の素行の悪さを聞かされて嬉しい親も居ないだろうがな)  尽は江根見(えねみ)則夫が娘を溺愛(できあい)していたのと同様に、相当な愛妻家であることも知っていたから……。  余計にバカなことをして家族を悲しませるとは思わなかったんだろうかと呆れたのだ。  そもそも娘がいる身でありながら、よそ様の大切なお嬢さんたちをモノのように扱うこと自体、尽には理解できなかった。 (さて――)  ここまで他人事(ひとごと)のように江根見(えねみ)親子や風見(かざみ)斗利彦(とりひこ)が追い詰められる様をすました顔で見詰めている横野(よこの)博視(ひろし)をちらりと見て、尽は机の下でグッとこぶしを握り締めた。  天莉(あまり)を散々傷つけたこの男のみお(とが)めなしだなんて、有っていいはずがないではないか。 「桃坂(ももさか)先生、彼と隣にいる女性にも書類を渡して頂けますか?」  則夫や風見よりは罪状が軽くなってしまうけれど、尽は横野が天莉にしたことだってきっちり清算させるつもりだ。
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