(24)尽の正体

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「そうよ、そうよっ! 紗英(さえ)、お腹空いてたから会場にすぐ戻ったもんっ! 博視(ひろし)の監視なんてしてないじゃない! だからあれは博視が勝手に……」 「うるさい、バカ女っ。お前、少し黙ってろっ!」 「酷いっ!」  バカ女呼ばわりされて、紗英が一瞬助けを求めるように父親を見遣ったけれど、則夫は自分のことで手一杯なのか、その視線に気付かなかった。 「お二人とも罪をなすり合おうとなさっているようですが、どちらも仲良く強制性交等罪幇助(ほうじょ)の罪に問われる案件です。こちらに関してもしっかり問題にさせて頂くつもりですので、そのつもりでいらしてください」 「だっ、だったらパパも!」 「それは当たり前ですね。あの部屋を押さえていらしたのは貴女のお父様だということは分かっていますから」 「紗英、お前っ! この()に及んでわしを売る気か! 親不孝者が!」 「パパが最初に紗英のこと、突き放したんじゃないっ!」  先ほど父親に冷たくあしらわれたことが我慢ならなかったんだろう。  博視が今し方自分をバカにした時だって、いつもの則夫ならすぐさま博視にモノ申してくれるはずなのに、それもなかったから。  紗英は紗英なりに、きっとそのことを根に持っている。 (まぁ、俺にはどうでもいいことだがな。せいぜい(みにく)(ののし)り合うがいい)  それで父子(おやこ)関係が徹底的に破綻(はたん)しようと、(じん)の知ったことではない。  尽は口汚く罪の(なす)り付け合いを始めた面々を汚いものを見るみたいに一瞥(いちべつ)すると、静かに言い放った。 「申し開きは各々警察官や検察官にされるがよろしかろう! とりあえずこちらの用件は全て済みましたので……」  そこで直樹に視線を流すと、尽の優秀な片腕がコクッと(うなず)いて――。
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