(24)尽の正体

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「まぁ冗談はさておき。――色々落ち着いたら僕にも紹介してね?」 「え?」 「ほら、(じん)ちゃんが夢中になってる女の子。今回のこと、もちろんアスマモル(会社)や、一緒に頑張ってくれた開発スタッフらのためって言うのもあるだろうけど……その子のためっていうのも多分にあったでしょう?」  桃坂(ももさか)の声に、尽が小さく息を呑んで――。  代わりに今まで黙って二人のやり取りを見詰めていた直樹が、「やっと落ち着いてくれたようでわたくしもホッとしているところです」と合いの手を入れた。 「ナオちゃんもそう思う? 僕も会うたびに尽ちゃんのお父さんから相談されていたからねぇ。ホント嬉しいよ」 「お察しいたします」  二人から生暖かい目で見詰められて、尽は早く天莉(あまり)の待つ家へ帰って癒されたいと思った。 *** 「――というわけですので営業部長と総務課長、それから営業社員が一名と、総務課社員が一名不在になります」  株式会社ミライの社長室――。  (じん)が人払いをしてもらった社長室でエグゼクティブデスク越し。重厚な椅子に腰かけたままの社長相手に一連の報告を済ませると、先ほど別れたばかりの桃坂(ももさか)弁護士と同年代くらいの男が静かにうなずいた。 「お疲れ様。今の件については事前に田母神(たもがみ)社長からも話は来ていたし、こちらもそれに備えて新体制を整える準備は出来ているから安心して?」  言われて、(じん)は眼鏡の奥の瞳をスッと細めた。 「では、私の席がじき空席になることも……?」 「その辺も織り込み済みだから安心してくれて構わない。ところで――」  そこで椅子からスッと立ち上がると、社長が尽にソファへ座るよう勧めてくる。  今、尽は社長室に直樹を(ともな)ってきていない。  報告内容がアスマモル薬品の内情にも関わることゆえ、社長秘書らにも退室してもらっている。結果的に尽は社長と差しで座る形になったのだが。 「――、長いこと、本当にお疲れ様だったね」  ふっと微笑む気配とともに、桃坂弁護士の再来ですか?という言葉が投げかけられた。
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