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尽は小さく吐息を落とすと、「その呼び方はやめて下さい、雄太郎おじさん」と目の前の男を渋い顔で見つめる。
「えー? それは無理だよ。だってキミのことは赤ん坊の頃から知っているんだもの。……周りに人がいないときくらいは……、ね? ――ところでいつも傍らにぴったりくっついているうちのコバンザメくんはどこかな?」
「ここへ来ると話したら逃げました」
「ああ。だろうねぇ。ホントあの子は……」
「優秀な俺の片腕です」
「うん。目に入れても痛くない僕の息子だから当然だね」
ふっと目尻を下げた伊藤雄太郎の甘いマスクは、目元などが本当に直樹とよく似ていて。
血は争えないな、と思った尽だ。
「で、僕の予想では空席はもう二つ増えるかな?って思ってるんだけど、……どう? ビンゴ?」
こういう察しの良いところも直樹にそっくりで、嫌になるな……と尽は溜め息を落とさずにはいられない。
「……お察しの通りです。二人とも俺があちらへ連れて行って構いませんか?」
「もし駄目だと言ったら?」
「その場合は雄太郎おじさんに恨まれてでも連れて行きます」
「じゃあ聞かないで?」
クスクス笑う雄太郎に、尽が「まぁ……でも、一応穏便にはいきたいな?と思っているので」と言ったら、雄太郎が「うーん。そう言われたら仕方ないなぁ。――嫌だけど許可しよう」と言ってくれた。
「でもさ、そのかわり――」
そこでこちらへ身を乗り出してきた雄太郎から、桃坂にされたようにポンポンと頭を撫でられてから、
「今度僕にもちゃんとフィアンセを紹介して? 僕は社員としての玉木天莉さんは知っているけれど、プライベートの顔はほとんど知らないから」
さっき桃坂弁護士からも似たようなことを言われたな?というセリフを告げられた。
尽は心の中、面倒くさいので、みんなひとところに集まってもらってから紹介するんでもいいですかね?と思ったのだが、文句を言われそうなので言わずにおいた。
(直樹、お前来なくて正解だったぞ)
そんな思いとともに――。
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