(24)尽の正体

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天莉(あまり)は本当、料理が上手だね。――キミと結婚できる俺は最高に幸せ者だ」  思ったままを口にして眼鏡越し、向かいへ座る天莉にふっと柔らかい笑みを向けた(じん)に、天莉が物凄く恥ずかしそうに視線を揺らせた。 「な、何かそういうの、なかなか慣れらんなくて、くすぐったいな……」  元カレだった横野(よこの)博視(ひろし)は、もう何年もずっと、天莉に感謝の気持ちを伝えることはなかったらしい。  そればかりか、天莉からポツポツと語られた話を繋ぎ合わせていく中で、天莉が博視から作るもの作るもの全部ケチをつけられてばかりだったことも知っている尽だ。 「ねぇ天莉。俺はこれからもずっと……キミにちゃんとそういう言葉を伝えていくつもりだ。天莉も少しずつで構わないから。それが当たり前なんだと思えるようになってくれると嬉しい」  食事中に行儀が悪いことだとは承知している。  だけど尽は椅子から立ち上がると、身を乗り出すようにして食卓越し。自分の方を驚いたように見つめる天莉の柔らかい頬を撫でずにはいられなかった。  だって――。 「あ、あれ? 私……何で……?」  こちらを見詰める天莉が、二重瞼(ふたえまぶた)の大きな瞳から静かにスーッと一筋涙を落としたから。 「しょ、食事中に急に泣いちゃうとか……私、恥ずかしいね」  尽の手にそっと小さな手を添えて瞳を揺らせた天莉に、「大丈夫だ。俺しか見ていないから」と微笑んで見せた尽だったのだけれど。  立ち上がった尽の足に当然の顔をしてまとわりついていたオレオがタイミングよく「ニャー」と鳴いて――。  天莉が「見てたの、尽くんだけじゃなかったね」と言って、瞳を濡らしたまま幸せそうに笑った。  尽はそんな天莉を見て、心の底から彼女のことを幸せにしてやりたい、と思った。 *** 「そっか……。あの……(じん)くん。休むことになったみんなは、どうなっちゃうのかな……」  天莉(あまり)の涙が引いてから。  再度椅子に腰かけて食事を再開した(じん)は、足をよじ登ってきたオレオをひざの上に乗せたまま、天莉に今日会社であった出来事をかいつまんで話した。
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