(24)尽の正体

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***  (じん)のことを〝尽ちゃん〟と呼ぶ弁護士の桃坂(ももさか)正二郎(しょうじろう)と、株式会社ミライ社長の伊藤(いとう)雄太郎(ゆうたろう)、そしてアスマモル薬品社長の田母神(たもがみ)(ひらく)は高校時代の同級生だ。  アスマモル薬品の跡取り息子だった田母神(たもがみ)(ひらく)と、一般家庭育ちの伊藤雄太郎、代々弁護士一家の桃坂正二郎には一見接点がなさそうに見える。  だが、三人とも高校ではテニス部に所属していて、そこで仲良くなったらしい。  大学では各々進路が違ってバラバラになった三人だが、大人になって高校の同窓会で再会したのが縁で、交流が再会した。  皆、地元で働いていたのも良かったらしい。  再会当時、(ひらく)はアスマモル薬品の副社長を、雄太郎は地元議員の議員秘書を、正二郎は父親が営む弁護士事務所で弁護士をしていた。  父・(ひらく)から、跡取り息子として会社に入ることの良い点はもちろんのこと、それ故の面倒臭さを散々聞かされて育ってきた(じん)は、親の七光りと言われるのが心底嫌だった。  アスマモル薬品の跡継ぎ息子であることをハッキリと理解した高校生の頃には、田母神(たもがみ)の人間であることを公言したくないと考えるようになっていた。  高校三年生のとき、進路希望調査票を前にそんな思いを両親へ打ち明けた尽に、父・(ひらく)は、進学を機に、母親の実家――高嶺家(たかみねけ)の養子に入るか?と提案してくれた。  親族の中に跡取り息子の尽を、田母神(たもがみ)(せい)でなくすことに反対する者がいなかったと言えば嘘になる。  だが、その方が尽を生き生きさせると言うのならそれで構わないと母・美羽(みはね)とも意見が一致したと言われて。  それ以来ずっと。  尽は田母神(たもがみ)(じん)ではなく、高嶺(たかみね)(じん)として生きてきた。  いずれは田母神(たもがみ)(せい)に戻るも良し。  尽が望むならば高嶺(たかみね)のまま後を継ぐのでも構わないと、(ひらく)からは言われているのだが、尽自身まだどうすべきか結論(こたえ)を出しあぐねている。
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