(4)そう言うことでしたら今夜はとりあえず

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 (じん)のその過保護ぶりに直樹(なおき)が申し訳なさそうに眉根を寄せたのを、天莉(あまり)は見逃さなかった。 (伊藤……さん?)  尽の肩越し。こちらを無言で見詰めてくる直樹の視線に、薄っすらと自分に対する憐憫(れんびん)の情さえ垣間見えた気がして、天莉は心の中でひとり首を(かし)げたのだけれど。 「――な? 直樹(なお)。分かっただろう? 彼女、ずっとこんな有様なんだよ。どう考えてもこのまま一人、誰もいない家に帰らせるのは考え物だと思わないか?」  長身で、タイプこそ違えどスーツの似合う超絶美形な異性二人がすぐそばに立っている状態で、自分だけソファに寝そべっていると言うのは非常に居心地が悪い。  色々と落ち着かない気持ちで尽と直樹を交互に見つめる天莉を置きざりに、尽の暴走が止まらない。 「だからな、直樹(なお)。俺は今夜、このまま玉木さんをうちのマンションへ連れ帰るつもりなんだ」 「は?」 「お前はとりあえず俺と彼女の身の潔白を晴らす証言者になってくれたらいい。そのためにわざわざ戻ってきてもらったんだからな」  直樹があからさまに呆れた顔をして睨み付けるのもお構いなし。  そんな風に尽が続けたのを、天莉は『でも高嶺(たかみね)常務っ。私、まだそれについては承諾していませんがっ』と身を乗り出そうとして。  ちらりと向けられた尽の視線に、あっさりと反論を封じられてしまう。  そもそもそれよりも重大な問題――結婚云々についても有耶無耶(うやむや)なままなのだ。  ハッキリ言って、天莉には完全にキャパオーバー。  だけど大丈夫――。 「なぁ、尽。僕はお前に『分かった。すぐ戻るから僕が行くまで』って返信しなかったか?」 (ほら。伊藤さんは高嶺(たかみね)常務の案に反対っぽいもの)  きっと、この流れからして、お泊りに関しては勿論のこと、上手くいけば結婚云々(うんぬん)に関しても高嶺(たかみね)(じん)の優秀な秘書が、当たり障りなくことが運ぶよう上司を言いくるめてくれるだろう。
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