(24)尽の正体

21/23
前へ
/482ページ
次へ
***  (じん)が、田母神(たもがみ)()を借りずとも自分の実力だけでどんどんアスマモル薬品の中で居場所を開拓していったのは周知の沙汰だ。  二十代と言う若さで開発研究部所長まで昇りつめたのは尽自身の実力で、(ひらく)は一切手心を加えていないと天莉(あまり)に話してくれた。  アスマモルでの成果は知らないが、ミライでの尽の活躍は天莉だって知っている。  尽が、社員一人一人の顔と名前や所属部署を熟知していることにも驚かされたし、恐らくそのために尽は人知れず努力を重ねていたことだろう。  そんな、何もかもにおいて順風満帆(じゅんぷうまんぱん)に見えた尽が、初めて辛酸(しんさん)を舐めたのが、今回の試薬の情報漏洩(ろうえい)問題だった。  尽は今まで一度も頼ったことのなかったアスマモル薬品の社長――父・(ひらく)に頭を下げ、この件の収拾(しゅうしゅう)は自分に一任して欲しいと願い出たらしい。  薬の流れ先として突き止めた子会社・株式会社ミライへ、ある程度の権限を持つポストでの出向を手配してもらったのも、それまで父の力を借りずにやって来た尽にとっては苦渋の選択だったそうだ。  けれど、プライドよりも何よりも、事態を収めることに全振りしたかったのだと尽が言って。  父の片腕としてずっとアスマモル薬品にいた直樹の父・伊藤雄太郎が、(ひらく)がミライを立ち上げた時に社長として就任していたことも知っていた尽は、かつては幼なじみの直樹とともに田母神邸(たもがみてい)の一画に家族同然で住んでいた第二の父・雄太郎にも頭を下げた。  直樹が生まれると同時に妻を亡くして苦しんでいた雄太郎に手を差し伸べたのは尽の父・(ひらく)だ。  母親の温もりを知らない直樹(むすこ)に、母親代わりをしてくれて、直樹より数か月前に生まれていた尽と同じように接してくれた美羽(みはね)にも恩義を感じていた雄太郎が、自身もまた我が子同然に可愛がってきた尽の申し出を断るはずがなかった。
/482ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6549人が本棚に入れています
本棚に追加