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「あ、あのっ、尽くんっ、そんな……ハンカチが汚れちゃうっ」
いきなりの下僕ぶりにソワソワさせられまくりの天莉と、甲斐甲斐しくフィアンセの世話を焼く尽を黙って見詰めていた啓が、ほうっと吐息を落とすのが聞こえて。
天莉は恥ずかしさに懸命に足を引っ込めようとしたのだけれど、尽の手がしっかり足首を捉えていて叶わない。
「じ、尽くん! お父様が見ていらっしゃるからっ!」
泣きそうな声でそう告げるなり、啓がふわりと天莉に微笑みかけた。
「天莉さん。情けない話ですが、わたくしも妻も、この子が本当の意味で幸せな結婚するのを諦めておりました。親のわたくしが言うのも何ですが……この容姿です。モテるくせに遊ぶばかりで……本気の相手を作ったところを見たことがありませんでしたので」
啓の言葉に、尽が「父さん、天莉に要らないことを吹き込まないで頂けますか?」と牽制したのだけれど。
啓はそんな尽をちらりと見遣るとふっと顔をほころばせて、「手のかかる子ですが、尽のこと、よろしくお願いします。――わたくしも妻も、天莉さんが家族になってくれること、心待ちにしておりますので」と天莉の手を握った。
「はい……」
天莉が答えるより先に、尽がその手を振りほどかせたのは言うまでもない。
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