(25)あとはキミが「はい」と言うだけだよ*

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(じん)くん、それ、本気で言ってるの?」  天莉(あまり)の戸惑いに揺れる瞳を見つめて、尽がひざの上で丸くなった愛猫オレオの喉元を指先でくすぐりながら、「ああ、本気だよ」と眼鏡の奥の瞳をふっと細めた。 ***  (じん)と直樹の、『株式会社ミライ』の退社――と言うより『アスマモル薬品工業』への復帰が発表されたのは、ミライに新しい営業部長と、総務課長が就任して割とすぐのことだった。  尽の退任と同時に彼の後を引き継ぐ常務取締役も発表されたのだけれど。  尽の後任者は元々ミライで同職に就いていた枝本(えだもと)十勝(とかち)という男で、尽と入れ替わる形で一時的にアスマモルの方へ交換出向していた人物だった。 「尽くんがいなくなったあと……。枝本さんが帰っていらっしゃるんですね」  天莉の言葉に、尽がうなずいて。 「今回の不祥事(ふしょうじ)については、枝本常務も責任を感じてくださってね。一年ちょっと前、俺がミライに入り込み易いように色々手を貸してくださったんだ」  天莉が入社してすぐの頃から約四年間。  尽がミライへ来る前に常務をしていた枝本は、五十代前半のとても人望の厚い人物だったと記憶している。  もちろんかつての尽同様、天莉とはほとんど接点のない雲上人だったけれど、社内での評判はかなり良くて。
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