(25)あとはキミが「はい」と言うだけだよ*

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 枝本(えだもと)がアスマモルへ出向することになったと決定した時、惜しむ声があちこちから漏れ聞こえて来たのを天莉(あまり)も覚えていた。 (後任の(じん)くんが余りにもハンサムで……そのうえ優秀だったからすぐにその噂は落ち着いちゃったんだけど)  尽がミライに来た時のことは天莉の記憶にも新しい。 (考えてみたら尽くん、江根見(えねみ)さんとほぼ同期みたいな感じだったんだよね)  紗英(さえ)が父親から聞いていたかどうかは定かではないけれど、尽がミライへ来たのは、紗英が新入社員として天莉のいる管理本部総務課へ配属されるより二ヶ月くらい前だったはずだ。  異例の時期に、突然重役の人事異動が行われたことに、社内が少なからず騒然したのを覚えている。  あれは本当に奇妙な辞令だった。  その全てが今回の件――試薬の情報漏洩(ろうえい)問題の収拾を背景にしていたのだと思えば、色々と合点(がてん)がいった気がした天莉だ。  それはそれとして。 ***  (じん)と直樹が退任して、ミライを去ると知って寂しさを覚えた天莉(あまり)に、尽が言ったのだ。  ――「天莉も一緒にアスマモルへ行かないか?」と。  それで冒頭の天莉のセリフ、「尽くん、それ、本気で言ってるの?」に戻るわけだが、尽は本気だと断言して。  なおかつ返事を急かすように「あとはキミが『はい』と言うだけだよ、天莉」と言い募ってきた。
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