(25)あとはキミが「はい」と言うだけだよ*

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「で、でも私……」  ミライでは総務課で雑用係のようなことをしていた天莉(あまり)だ。  そんな天莉に(じん)が告げた移動先は現職と同じ総務職ではなく、秘書課への異動で。 「秘書検定資格はおろか、そういう勉強をしてきたことさえないのに? いくら何でも無謀だよ」  オロオロと告げたら、尽がニヤリと笑って「奇遇だな、天莉。実は直樹(なお)も元々は全くのど素人なんだ」と言いながらオレオを床へ下ろした。 「えっ」  ニャーニャーと抗議の声を上げながら足元へ取り(すが)るオレオをたくみに()けながら、尽が天莉の方へ近付いて。  そのまま真横に立って天莉の手を握ると、「俺はアスマモルへ戻ったら父の補佐をする形で副社長へ就任することが決まっている。もちろん直樹(なお)が引き続きそんな俺を秘書として支えてくれることになってはいるが、それだけじゃ頑張れる気がしないんだ。――俺はね、天莉。愛するキミにもそばにいて欲しいんだよ」と熱のこもった眼差しを向けてきた。 「でも……」 「天莉は俺と離れ離れになっても平気なの?」  至極真剣な問いかけなのに、二人の足元でオレオが必死にニャーニャー言っているのが気になって仕方のない天莉だ。 「平気じゃ……ない、けど」 「けど?」  天莉にだって、五年間もお世話になってきた株式会社ミライへの義理と恩義がある。  オレオを抱き上げながらそう言ったら、「その点は問題ない」と一蹴(いっしゅう)されて。  どういう意味だろう?とすぐそばに立つ尽を見上げたら、「ミライの社長からはすでに承諾(しょうだく)済みなんだ」とか。
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