(25)あとはキミが「はい」と言うだけだよ*

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 そんなこんなで住む場所――というか退路を断たれてしまった天莉(あまり)には、(じん)と同棲を続ける道しか残されていないのだけれど。  今回の、親会社への移籍の件に関しても「ハイかイエスかうんで答えてね?」みたいな感じで、元より天莉には「NO(いや)」と答える未来は残されていなかったように思う。 「尽くんの策士……」  ポツンと()ねたようにつぶやいたら「今更分かったの?」とクスクス笑われた。 ***  リビングで話していたら、オレオが(じん)の気を惹こうと必死の形相(ぎょうそう)でニャーニャー鳴きながら二人の間に割り込もうとしてくるから。  しゃがみ込んでそんなオレオを撫でながら尽が苦笑まじり、「のんびり話せる場所に移動しようか?」と問い掛けてきた。  天莉(あまり)が(うちにそんな場所あったかな?)とか(オレオを部屋から締め出しちゃうのかな?)とか思っていたら、あれよあれよと言ううちに服を脱がされて。 「あ、あのっ」  余りの手際の良さに戸惑う天莉をよそに「風呂へ行こう」と下着姿のまま手を引かれて洗面所に連れ込まれてしまう。 「お湯はいつもより(ぬる)めのが溜めてあるからね」  必死に駆けてきて脱衣所にまで転がり込んできたオレオを「ホント困った子だ」と抱き上げた尽から、吐息まじりに言われて。  尽が裸同然の自分を置いて姿を消したことに安堵(あんど)した天莉が、わけも分からないまま言われた通り裸になってシャワーを浴びていたら、自身も全裸になった尽が当然のように入って来て、背後から包み込むように抱き締められた。 「あ、あの……尽くん……オレオは……」  てっきり天莉が風呂に入っている間、尽はオレオの相手に忙殺されるのだとばかり思っていたのに。 「リビングに閉じ込めてきたよ?」  さらりと言われて鏡越し、じっと見詰められてしまう。
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