(25)あとはキミが「はい」と言うだけだよ*

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 まんまと(じん)の思う通りになってしまっていることが悔しくもあり、何となく嬉しくもあるのが、天莉(あまり)自身にも理不尽に思えて少しだけ納得がいかない。 「で、でも私……本当に何も知らないから。……け、研修期間とか、ちゃんと設けてね?」  背後の尽を振り返らないまま、お湯にブクブクせんばかりの体勢で眉根を寄せた天莉に、「実地が一番の研修だと思うがね?」とうつむいたことでむき出しになってしまった首筋にチュッとキスを落とされた。 「ひゃっ」  余りにも突然の口付けに、天莉はビクッと身体を跳ねさせて悲鳴まじり、背後の尽を真っ赤になりながら振り返ったのだけれど。  そのせいでパシャリとお湯が跳ねて、尽にギュッと腰を抱き直された天莉は、じかに触れる尽の肌の感触をより一層意識させられてソワソワと落ち着かない。 「ついさっき、もっとエッチなこともしたのに……。キスだけで耳まで真っ赤にしてしまうとか。ホント天莉は可愛いね」 「おっ、お湯が熱いだけ、……だもんっ」  先ほどの痴態を思い出してさらに顔が火照ったのを感じた天莉が、耳を隠しながら懸命に言い返したら、「そう?」とクスクス笑われて。  尽が笑うのも当然だ。だって、いつもより(ぬる)めに設定された湯船には、ついさっき浸かったばかりなのだから。
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