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(ま、彼女の方は尽を説得するのに話す内容で、簡単に懐柔出来るでしょうし)
直樹はそんなことを思いながら天莉に背を向けると、
「けど直樹、そんなこと勝手に決めたら璃杜が黙ってないだろ!?」
などともっともらしい理由を並べ立てて抗議する幼なじみを静かに睨み付けた。
身長一八〇センチの尽に対して、直樹は一八二センチ。
実質、差なんてほとんどないが、ほんの少しだけ直樹の方が高い。
その小さな身長差を存分に生かし切れるほどではないと思うが、尽がそこに少なからず自分に対する引け目を感じているのは、高校生の頃に彼の身長を追い越した時にしかと心得ている直樹だ。
意図的に尽の頭の先から爪先までを、呆れたように睨めつけてから、直樹はわざと業務的に「御心配には及びませんよ、高嶺常務」と呼び掛けてから、スマートフォンをひらひらと尽の前で振って見せて。
「璃杜には今から電話するので問題ありません。貴方と違って僕らのもう一人の幼なじみはとても聞き分けがいいの、ご存知でしょう?」と付け加える。
「そもそも家に帰るのが遅くなるって分かった時点で一度連絡していますし、貴方が何かやらかしただろうことは璃杜にも分かっていると思いますから」
反論の余地を与えず一気にそこまでまくし立てると、直樹はピッとこれ見よがしに尽の前でリダイヤルボタンを押して、自宅に電話をかけて。
「もしもし、璃杜? 連絡がおそくなってごめんね」
尽に対するときとは真逆。天莉が思わず目を見開いてしまうほど優しい声音で語り掛けた。
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