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(あれ? 怖く、ない……?)
さっき感じた悪寒が嘘みたいに直樹から消えていることに驚いた天莉だ。
(これって。私が……お嬢さんのお話をしたから、だよ……ね?)
直樹の娘の名が、あんまり自分好みな名前だったものだからつい反応してしまった。いつもならこんなことあり得ないのだけれど、体調不良でどうかしていたらしい。
子供の話になるや否や嬉し気に食いついてきた直樹に、いきなり手首を取られて手のひらに指を這わされた時には正直物凄く驚いた。
でも、尽のように異性としての下心が微塵も感じられなかっただろうか。
直樹から手を握られていることに、天莉はちっともドキドキしなくて――。
結果握られた手を奪い返すことも忘れて、直樹の説明に聞き入ってしまった。
恋人でもない男性と過度な接触をすることに、ある意味潔癖とも言えるぐらいの過剰反応をしてしまう自分にしては珍しいリアクションだったかも、と我ながら驚いた天莉だ。
(……そう言えば身体を起こされた時も、変に意識しなかったな)
予め抱き起こすために触れると宣言されていたからかも知れないけれど、何ていうか伊藤直樹という男性は、一事が万事〝男〟を感じさせない人だなと思ってしまった。
それはきっと――。
「本当お前ってやつは家族が絡むと押さえがきかなくなるな」
そう。
今、目の前で呆れたように尽が言った、その一言に尽きるのだ。
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