(5)俺も今夜はお前ん家に

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 直樹(なおき)が好きなのは妻の璃杜(りと)だけだと思えるから……天莉(あまり)は直樹に対して微塵も異性としての危機感を覚えずに済む。  見た目こそ、二人ともスーツの似合う美丈夫と言った(じん)と直樹だが、尽からはこんな風に距離を空けていても尚、気まずいくらいのセックスアピールを感じてしまうのに。  直樹からはどんなに距離が詰まってもそれを感じない。 (あんな風に一途に想ってもらえる奥様は幸せね……)  ふとそんなことを考えた途端、博視(ひろし)紗英(さえ)のことを思い出してしまって。  天莉はズキッと刺すような胸の(うず)きに、鼻の奥がツンと痛んだ。 (ダメ……)  幸い、今二人の視線は天莉に向いていない。  こちらを向かれる前に、瞳にジワリと張った涙の膜をどうにかしないと……。  そんな風に思ってソファの上。  天莉は身じろぎ出来ないまま、瞬きの回数を極力抑えて涙が(ほほ)を伝い落ちてしまわないよう頑張った――。 ***  背中越し、ふと天莉(あまり)の方を見た(じん)は、彼女が必死に涙をこらえていることに気が付いた。  粗方(あらかた)何かをきっかけに、元彼のことでも思い出したに違いない。  そう思ったら、何だか物凄くムカムカしてきてしまった。  尽は視線だけで直樹に、『今から俺がすることに一切口を挟むな』と釘を刺すと、気持ちを切り替えるように小さく吐息を落とした。  そうして――。
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