(5)俺も今夜はお前ん家に

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「なぁ、」  (じん)天莉(あまり)が腰かけたソファの背もたれに片手を突いて彼女の耳元に唇を寄せると、あえて〝天莉〟と下の名前で呼び掛けて、彼女にだけ聞える程度の声音で続ける。 「真面目で一途なキミのことだ。どうせバカ女にほだされてキミを裏切ったクソ男のことにでも思いを()せているんだろうが――」  わざとバカだのクソだの言い連ねて天莉を裏切った二人を(おとし)める言い方をした尽の言葉に、天莉が貴方のご指摘は図星です……と言わんばかりに小さく肩を震わせるから。  尽は苛立たしさに思わず舌打ちをせずにはいられなかった。 「キミのような素敵な女性があんなろくでもないヤツらのために涙なんて流してやる必要はない。キミはあんな奴らなんて足元にも及ばないくらい価値のある人間だと思い知るべきだ」 「……そんな……私に価値なんて……」  尽が天莉の心を上向かせようと告げた言葉は、どうやら自己肯定感の下がった天莉には届かないらしい。 (五年も付き合った男に裏切られたばかりだ。無理もないか)  そう思いはしたものの、尽はその気持ちを肯定してやる気なんてさらさらないのだ。 「天莉、ひょっとしてキミは自分には価値がないって言いたいの? それを本気で言ってるんだとしたら、俺は見る目がない男だって遠回しに侮辱されてるとも取れるんだけど?」 「え……?」 「だって、さっき俺はキミに言ったよね? 俺は天莉のことを(めと)りたいと思ってるって。忘れたとは言わせないよ?」  そこだけはあえて背後に控える直樹(なおき)にも聞こえるように声をワントーン大きくして告げた尽だ。  どうせゆくゆくは彼女をものにするつもりで自分が天莉に近付いていることは、直樹にだってとうの昔に知られている。  だが、それを天莉自身に告げているかどうかに関して、直樹はまだ知らなかったはずだから。
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