(5)俺も今夜はお前ん家に

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 だけど目の前にいる玉木天莉(あまり)という女性が、今まで(じん)が遊んできた他の女性たちと比べると、余りにも初心(うぶ)そうに見えて……。  尽に近付くことのメリットなんて微塵も計算していなさそうな雰囲気が、直樹(なおき)の良心をやたらと刺激したのだ。  彼女を尽の毒牙にかけるのは忍びない、と思ってしまうほどに。  それに……。 (彼女はうちの娘の名前を――ひいては俺の大事な璃杜(りと)のセンスを褒めてくれたから)  出来れば天莉を自分たちの――というより尽の事情に巻き込みたくないと思ってしまった直樹だ。  幼なじみの今までの女性遍歴のように、尽が男としての欲求――主に性欲――を満たすためだけに動いていて……なおかつ相手も尽のステータスに利益を見出そうとしているのが透けて見えたなら。  その火遊びが尽の足を引っ張る(ほころ)びとならないよう、直樹は全力で尽を止められるのだが。  今みたいに本気で天莉を口説いているのだと言われたら、直樹は尽を全身全霊でバックアップしなければならなくなる。 (――僕はそのつもりで尽に仕えてきたはずだ)  そう。直樹は、幼い頃からずっと……。全ての(しがらみ)から尽を守るのが自分の使命だと思って彼のそばにいたのだから。 「……忘れてはいない」  絞り出すようにポツンとつぶやいた直樹に、尽がわざとらしく吐息を落とした。  追い詰められたみたいに何も言えなくなってしまった直樹に、まるでとどめを刺すみたいに尽が続ける。 「――さっきお前はフェアじゃないって言ったよね?」  そこでいったん言葉を止めた尽が、喉の奥、ククッと押し殺したように楽し気に笑って。 「それが勝機になるんなら大いに結構じゃないか。俺はそれを最大限に利用させてもらうつもりだよ?」  尽は直樹の肩にポンと手を載せると、 「立場をわきまえろ、。お前は俺の邪魔をするために俺のそばにいるわけじゃないだろう?」  静かな声音でそう問い掛けてきた。  いつも〝なお〟と呼び掛けてくるくせに、直樹に反論を許さないときにだけ、尽は自分のことを〝なおき〟と呼んでくる。  それは幼い頃からずっと変わらない暗黙のルールみたいなものだったから。  直樹はややしてポツンと――。 「玉木さん、申し訳ありません」  背中を向けたまま天莉に謝った。
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