(6)囚われの天莉

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(な、んでっ。こんなことになってしまってるの!?)  結局あの後、(じん)直樹(なおき)、二人の美丈夫(イケメン)に支えらえるようにして会社を後にしたのだけれど――。 「天莉(あまり)は俺の車な?」  てっきり直樹の車へ乗せてもらえるんだとばかり思っていた天莉は、車の助手席に乗せられてしまったことに『あれ? 何で?』と違和感を覚えた。  でも、天莉は常務室(うえ)で、尽が自分も直樹の家に行くとごねていたのを知っていたし、二人のやり取りから直樹が尽に言い負かされてしまった気配も感じていたから。  何だかんだで尽も直樹の家へ泊まることになったのかな?と思ったのだ。  直樹から、こちらを向かないまま背中越しに謝罪されたのは、尽も伊藤家(いとうけ)へ招待することになってしまったことを謝られたんだろう。  そう思っていたのだけれど……どうやら違ったらしい。  気が付けば後ろを走っていたはずの直樹の車がいなくなっていて、尽と二人きり。  滑り込むようにマンションらしき建物の地下駐車場に車が入って、車内が何となく薄暗くなったことに戸惑いを覚えた天莉だ。 「あ、あのっ」  着いた先はそれほど高くない五階建てのマンション。  思わず尽に呼び掛けたけれど、車を駐車している真っ最中だったからだろうか。  眼鏡越しにちらりと視線を向けられただけで、何も応えてはもらえなかった。 (あ。でもっ)  尽のような人種は、タワーマンションの最上階に住んでいるに違いないと勝手に思い込んでいた天莉は、地下へ入る前に見えた建物が思いのほか低層だったことをふと思い出して。 (きっとここは高嶺(たかみね)常務のお宅ではないはずよ)  と大した根拠もなく淡い期待を抱いていた。
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