(6)囚われの天莉

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 今から自分が連れて行かれるのか不安が拭えないまま。  太ももに乗せた手をギュッと握っていたら、いつの間にか運転席側から外を回ってきた(じん)にドアを開けられて、上へ覆い被さるようにされてシートベルトを外されていた。 「自分で降りられるか?」  聞かれて、座ったままで居たらまた身体に触れられかねないと思った天莉(あまり)は、何も分からないままにヨロヨロと車外へ出たのだけれど。  それと同時――。  あっという間に尽の腕の中へ引き寄せられて。  天莉は抗議する間もなく横抱きに抱え上げられてしまっていた。  ふわりと自分を包み込んだ石鹸のようなシトラス系の香りに、にわかに熱が上がる。 「あ、あのっ、高嶺(たかみね)常務っ、私……」  確かにまだ足元が覚束(おぼつか)ないから。  支えは必要かもしれないけれど、抱っこされなくても自分で歩けます、とオロオロ尽を見上げたら「遠慮するな」と、眼鏡越しにやんわり微笑まれた。  その笑顔の余りのパンチ力にドキッとしたせいだろうか。 (わ、私……。さっき彼と……)  思い出さなくてもいいのに、尽に口付けられたことを思い出してしまった天莉は、慌てて尽から視線を逸らさずにはいられない。 「急にうつむいてどうした天莉。一体何を思い出したのかね?」  天莉を抱き上げていることなんて微塵も感じさせないしっかりとした足取りで大股に歩いて行きながら、尽が意地悪くククッと喉を鳴らして笑う。 「な、何も思い出してなんかっ」  それが何だか悔しくて、天莉はうつむいたまま無意識。ぷぅっと頬を膨らませた。
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