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「高嶺常務の策士っ!」
見上げた尽の、口角の上がった嫌味なくらい端正な顔立ちが妙に腹立たしくて――。
天莉は尽の腕の中で抗議の声を上げる。
「なんだ。今頃気付いたのか」
尽が天莉を見下ろして含み笑いをしたのと、箱が着いたのとがほぼ同時で。
その意味深長な表情にさぁーっと血が気の引いた天莉が、『逃げなきゃ、常務の部屋に連れ込まれちゃう!』と気付いた時には後の祭り。
尽にしっかり捕獲された天莉を閉じ込めるみたいに、無情にもエレベーターの扉が閉ざされた後だった。
***
これがタワーマンションの最上階ならばエレベーターが目的階に着くまでにもう少し時間を要しただろう。
だけどここはたかだか五階の低層マンション。
あっという間に最上階へ着いてしまった。
(どうして高層マンションじゃないの? 高嶺常務ほどの人なら、絶対にそっちの方がしっくりくるのに)
そんな思いが顔に出てしまっていたのだろうか。
「俺は高いところが余り好きじゃなくてね」
尽が、内廊下を歩きながら世間話でもするみたいにつぶやいた。
本当なら平屋の一軒家に住むのが理想なのだと続けながら、いずれはそのつもりだと付け加える。
「子供が出来たら庭で遊ばせたいしね」
何でもないことのようにそう言って、「キミは?」と問われた天莉はキョトンとした。
そこでちょうど部屋に着いたらしく、天莉を抱いたまま器用にドアを開けた尽が、横抱きに抱えた天莉の足がドアの縁に当たらないよう身体の向きをほんの少し斜めにしながら中へ入る。
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