(6)囚われの天莉

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「えっ、嘘……なん、で?」  ソファに所在なく座ったままオロオロとカーテンと(じん)を見詰めたら、「ああ、うちはスマートホームになってるからね」と何でもないことのように尽が微笑む。  尽の説明によると、室内あちこちにあるスマートアシスタントに指示を出したり、あらかじめタイマーでアクションを設定しておくだけで、カーテンの開閉はおろかテレビやエアコンのオン・オフ、風呂の湯張り、コーヒーメーカーの作動なども出来てしまうらしい。 「天莉(あまり)が一緒に住むようになったら、キミの好みの設定に変えることも出来るからね。その辺はおいおい一緒にすり合わせて行こうか」  何でもないことのように言われた天莉は、「そのことなんですけど」と居住まいを正した。 「私、高嶺(たかみね)常務のお話をお受けするだなんて一言も……」  意を決して言ったつもりだったのに、「――腹減ったよね? けど、まだ体調も万全じゃなさそうだし、変なモンは食わせられないなぁ。……夕飯は消化が良くて身体が温まるもの……。んー、そうだな。『うららか屋』のうどんでも取るか」と軽くスルーされてしまった。 「ねぇ天莉。キミは嫌いなモノや食べられないものはないはずだとんだが、間違いない?」  聞かれて、思わず「はい」と答えてしまった天莉だ。  でも、よくよく考えてみれば、どうしてそんなことを知っているのか、もしかして事前に自分のことを調べたりしていたのか……などなど、問い詰めるべきことは山積みだったはずなのに。 (もう、私のバカ! なに流されちゃってるの!)  いくら体調が悪いからと言って、尽のペースに飲まれ過ぎだ。  夕飯云々(うんぬん)の前に白黒つけたい事案があって、それをちゃんと話したいのに――。  尽が携帯を操作して、高級うどん屋として有名な『うららか屋』へ電話をしている間、天莉は何も言えなくなって、仕方なく部屋の中を見回した。
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