(2)体調不良が招いた出会い

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 翌週、さすがに出社するのが嫌で、重い足を引きずって総務課のフロアに入った天莉(あまり)は、朝礼で課長が告げた「うちの課の江根見(えねみ)くんが、営業企画課の横野くんと結婚することになった」という言葉に、ぼんやりとやはりあれは現実だったんだと思って。  足元がグラリと崩れ落ちる錯覚に襲われたけれど、何とか机に手をついてその場に留まった。  公言こそしていなかったけれど、博視(ひろし)と天莉が付き合っていたことを知っていた者は少なくない。  今、紗英(さえ)と博視が祝福されたように、この会社は社内恋愛禁止ではないからだ。  業務に支障をきたすような場合はどちらかが異動になることもあるが、課が違えばそんな心配もない。  予期せぬ組み合わせでの突然の結婚報告に、一部の人間がひそひそとささやく声が聞こえてくるようで、天莉はいたたまれない気持ちになった。  そんな天莉に、皆からの祝福もそこそこにすぐそばまで駆け寄ってきた紗英が、天莉にしか聞こえないくらいの小声で言うのだ。 「玉木先輩(せんぱぁい)、後から来て年齢(とし)もっ! うんと先輩より若い紗英の(ほぉー)が先に結婚することになっちゃってホント申し訳ないですぅ。先輩も行き遅れないよう婚活、頑張って下さいねっ? 名前の通り、先輩が天莉(あまり)ものになっちゃったらって……実は紗英、めちゃくちゃ心配してるんですよぉ? あ、もちろん博視も! 彼もで先輩のこと、すっごく気にしてましたのでぇー、あんまり気を揉ませないであげてくださいねー?」  その言葉は傷ついた天莉(あまり)の心をさらに深く傷つけて。  腹立たしいと言う気持ちより、居た堪れない想いに侵食される。  心の中、『あなたの名前(ほう)こそ江根見(えねみ)だなんて……ホント(エネミー)そのものじゃない』とか思ったけれど、心が疲弊しすぎていて何も言い返す気にはなれなかった。
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