(6)囚われの天莉

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*** 「別件……?」  天莉(あまり)がますます疑問を深めたように自分を見てきたから、(じん)は小さく吐息を落とした。 「業務に関わることだから詳しくは話せないんだが――」  前置きをして、尽は本当の調査対象は天莉ではなく彼女の部署の別の人物で、天莉のことは本丸と同じ部署(フロア)にいた関係で色々知ることになっただけだ、と話すに留めた。 (まぁ、うちの秘書は優秀だからな)  実際そんなところまで要らないだろうという情報も、直樹は事細かに調べ上げて尽に報告してくれたから。  調査資料に目を通す中で、玉木天莉という女性が食に対して好き嫌いがほとんどないことも、料理をするのが好きなことも、猫グッズを集めて会社で使っていることも――その他のアレやコレやな情報も――尽は詳細に記憶していたりする。 「えっと、……つまりは私だけを調べていたわけではない、と――。そういうことです、ね?」  ややしてうかがうように問い掛けられた尽は、「もちろんだよ」と即答したのだけれど。  天莉の事を知っていく中で、ゆくゆくは自分の身の安泰のために、彼女のタイプの女性を手中に収められたらいいなと思っていたことは秘密だ。 (横野が彼女を捨ててくれたことは、俺にとっては僥倖(ぎょうこう)だっただなんて言ったら、天莉は怒るだろうか)  高級(ハイエンド)ホテルの前で、見知った三人の男女が揉めているのを目にしたとき、尽は天莉の凛とした態度を見て、〝天莉のような女性を〟と言う不確かだった気持ちが、〝天莉をこそ〟絡め取りたいと心変わりしたことを覚えている。 (まさかそう思った翌日に、こんなチャンスに恵まれるだなんて思ってもみなかったけどね)  ある意味、自分はやはり〝持っている〟人間なのだと尽は思う。  根回しが足りなさ過ぎて、尽にとって一番の味方であるはずの直樹が危うく障害になりそうだったのには少し驚かされたが、まぁ今こうして天莉を自宅に連れ込めているのだから結果オーライだろう。
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